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吉武 優 ピアノリサイタル 開催レポート
《2012年 日本音楽コンクール 入賞者シリーズ》
2013年10月2日(水) 19:00開演 18:30開場
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」
今晩のパウゼでは日本音楽コンクール入賞者シリーズ、吉武優ピアノリサイタルが開催されました。‘幻想’というタイトルのついたベートーヴェンとシューマン、‘平和’な風景が目の前に浮かぶようなバッハ(ペトリ編)と、‘戦争’という時代背景を有するプロコフィエフ。非常に考え抜かれたプログラムで、吉武さんご自身の音楽に対する熱い思いと作品に込められた作曲者の深い意図が伝わってくる素晴らしいコンサートとなりました。最初に演奏された、バッハ=ペトリ≪羊は安らかに草を食み≫では天国的な憧憬の感情が安らかに、そして甘美に歌い上げられました。三度で揺れ動く穏やかなファンファーレ風のハーモニーとコラール風の主旋律の掛け合いが絶妙で、各声部の引き分けも見事でした。
変ロ長調の主和音でバッハの天国的な音楽に続き、演奏されたのはベートーヴェン≪ピアノ・ソナタ第13番変ホ長調作品27-1「幻想風」≫です。三度で主和音をなぞる単純な主題から一層自由な世界へと羽ばたいてゆく「幻想風」ソナタですが、吉武さんの演奏では移行部の叙情性と壮大な世界を垣間見させる速いパッセージとの間の構成感が明快で偉大な古典派作曲家の底知れぬ創造性が豊かに表現されていました。
シューマン≪幻想小曲集作品12≫においては、シューマンならではのロマン主義的な叙情性が情熱的に表現され、会場も大いに沸きました。吉武さんの演奏は、細部に渡る丁寧な表現やしなやかなタッチと共に、極度の喜びと絶望が交錯するシューマンの音楽に相応しいエネルギッシュなものでした。
プログラムのフィナーレを飾ったのはプロコフィエフ≪ピアノ・ソナタ第8番変ロ長調作品84「戦争ソナタ」≫。第7番に次いでよく演奏される名作ですが、本日のプログラムと吉武さんの深い音楽理解と卓越したテクニックにおいて聴くと、奥深い神秘性から様々な想念が隆起し交錯してゆく作品の魅力と本質が明確になります。クライマックスの盛り上がりも素晴らしく、会場も惜しみない拍手を送りました。
アンコールは、シューマンのピアノソナタ第1番より第二楽章とラヴェル≪夜のガスパール≫よりオンディーヌ。まるで雨上がりの後の爽やかな夜風に仰がれるように、深い音楽的な感動の後の優美な一時を堪能しました。
(G.T.)
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