トップページ

コンサート情報

トピックス

概要

KMFミュージックフレンズ

CDメディア

リンク

 ホーム(ニュース) > コンサート情報 > 2013年 > シューベルティアーデTOHO2013 > 開催レポート

シューベルティアーデTOHO2013 〜シューベルト再発見!〜
桐朋学園大学教授陣によるシューベルト作品を巡る6日間!
会場:
カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
●9月4日(水)19:00〜 
イブニングコンサート<声楽曲コンサート> 開催レポート

 

 

 

 9月2日よりパウゼにて開催されている「シューベルティアーデTOHO 2013」。三日目のイブニングコンサートは「歌曲の王」シューベルトの神髄に迫る素晴らしいプログラムとなりました。

 最初に演奏されたのはテノールの藤川泰彰さんによる『美しき水車小屋の娘』より抜粋。筆者がとりわけ感銘を受けたのは第七曲「苛立ち」、第十曲「涙の雨」、第十八曲「萎める花」です。美しい娘に恋い焦がれながら募る苛立ちや甘く儚い恋の情景、絶望へと主人公の心理が移り変わって行く様子が藤川さんのクリアーな発声、明朗なフレージングにお客様もうっとりと聴き入っておられました。

 続いて歌われたのはソプラノの大橋ゆりさんです。激しく揺り動く激情の中で神を呼び求める「若い尼僧」、弦楽四重奏曲にも転用された「死と乙女」、満たされない愛を嘆く「少女」、清らかな天上への祈り「アヴェ・マリア」、おどけた調子で儚い夢を見る「千変万化の恋する男」、死において愛の実現を歌う「ロマンス(『ロザムンデ』より)」。まるで少女の生涯の物語を聴いているようで、大橋さんの高い集中度を保ちつつ気品に溢れた発声は一層作品の魅惑的な世界を美しく演出します。

 後半は谷茂樹さんによる『冬の旅』と『白鳥の歌』より抜粋。谷さんのバス・バリトンの逞しい声質そのものがすでにシューベルトの晩年の孤独と哀愁を現しており、とりわけ「影法師」は恋人の面影を追い求めて見たのものが自らのドッペルゲンガーであったという凍りついた絶望感が非常に巧みに表現され、会場にも緊張感が漲りました。

 コンサートのフィナーレを飾ったのは藤川さんと大橋さんによる歌劇『謀反人たち(家庭戦争)』より第一曲と第十八曲のデュエット。現代ではほとんど知られていないこのオペラ。大橋さんのレクチャーによれば、台本は古代ギリシャの喜劇作家アリストファネスの『女の平和』を改作したものだそうで、筋書きは戦争に明け暮れる男たちに対して女たちが結束して求愛を拒むことで平和を取り戻すというもの。笑いに溢れた原作の筋書きに男女が互いに手を取り合う愛の素晴らしさを重ねるシューベルトの顔が見えるようでした。

 すべてのプログラムの伴奏を務められた中井恒仁さんのピアノも極めて繊細かつ格調の高いものでシューベルトの詩情と共に多彩な声楽の美点を引き立てていました。

 詩が人間の繊細な内面を美しく描き出すということ。そしてまた歌はそれ自体テクストを注釈し、作品の世界を物語るということ。そして、美しいものに恋い焦がれながらその零れ落ちてゆく儚さのために疎外され、絶望の上を夢見ながら流離う若きシューベルトの魂。このプログラム構成とこの演奏でなければ決して体感することができなかったシューベルトの歌曲の世界をたっぷりと堪能させて頂きました。

(G.T.)

 ホーム(ニュース) > コンサート情報 > 2013年 > シューベルティアーデTOHO2013 > 開催レポート