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シューベルティアーデTOHO2013 〜シューベルト再発見!〜
桐朋学園大学教授陣によるシューベルト作品を巡る6日間!
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
●9月3日(火)10:30〜12:30
ピアノ公開レッスン − ピアノ・ソナタ 第20番 イ長調 開催レポート
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本日は、ピアニストおよびピアノの指導者として大変にご活躍中の仲道郁代さんが、シューベルトのイ長調のソナタについてレッスンされました。シューベルトが最晩年の時に書いたこのソナタは、各々4つの楽章が大変美しいだけではなく、第1楽章と第4楽章で同じような音楽素材が別の意味合いをもって登場するなど、楽章間に有機的な繋がりがあります。第4楽章は非常に工夫の凝らされた輪舞曲となっており、輪廻転生を思わせるような楽曲となっています。
レッスン全体を通して先生が大変強調されたのは、シューベルトが歌曲の作曲家、それもドイツ歌曲の作曲家であったことです。ドイツ語での歌はイタリア語やフランス語のそれよりも子音が際立ち、音楽の流れの中にもはっきりと言葉の粒が現れます。また、たとえピアノ曲であっても「シューベルトはこのメロディーにどんな歌詞を想定していたのだろうか」とイメージしながら演奏することで、より演奏者自身の表現したいことも明快になってきます。さらに、シューベルトの歌曲に特徴的なのは旋律の繰り返しであり、これは彼のピアノ曲の特徴にもなっています。ここで考えなければならないのは、繰り返される旋律を毎回どのように解釈するかです。歌曲の場合は旋律ごとに違う歌詞が当てられていますが、ピアノ曲の場合、それを全て演奏者が綿密に考える必要があります。仲道先生は、時には受講生1人1人に表現したいことを、言葉で具体的に挙げさせながら、より聴き手に伝わる音楽創りを目指していらっしゃいました。
第1楽章と第2楽章を受講されたのは、今年度大学生になったばかりという林万里歌さん。緊張したときに身体を固くすることなく演奏するのが難しいという林さんに、先生はもっと会場の空気を感じて、それを全て自分一点に集めるようなイメージで演奏するように指示されました。その日に演奏する会場を見渡し、その日に演奏する楽器とよく向き合うことは、その日の演奏に最もふさわしいペダリングやタッチを選べることにつながります。また、今回の作品の場合は、第1楽章を弾き始めるときに全楽章を展望する必要があります。
第3楽章と第4楽章を受講されたのは、いよいよ大学を卒業され若手ピアニストとして歩もうという辻文佳さん。直前の憂鬱な印象の第2楽章に対し、軽やかな表現が要求される第3楽章では、ペダルの扱いに留意するよう指示されました。長大な第4楽章では、全ての音が聴き手にとって「特別な時間」になるよう、1つ1つの音符や休符に自分で言葉に出来るような意味を与えなければならない、と仰いました。
わずか31歳で世を去り、晩年辛い闘病生活を続けていたシューベルトは、他の作曲家に比べてさらに死や来世への憧れが強かったように思われる、と仲道先生は仰っていました。そのことを頭に入れながらシューベルトの書いた一音一音を見てゆくと、彼の抱いていた憧れというものがどのようなものであったのかと、想像を膨らませることが出来ます。仲道先生のレッスンは、シューベルトの作品の奥深さを存分に知ることの出来る、大変興味深いものでした。
(A.T.)
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