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ピアニストとパーソナルトレーナーによる
“カラダ” のしくみと使い方講座 開催レポート
〜音に直結、自由な身体を手に入れるために〜
2013年
3月12日(火) 10:30〜12:30
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」
講師:宮坂 博(パーソナルトレーナー)松本和将(ピアニスト)

  

  

 3月12日パウゼにて、ピアニスト松本和将先生と、パーソナルトレーナー宮坂博先生による『“カラダ”のしくみと使い方講座』が開催されました。この講座は、「美しい音や豊な表情を出すためにはどのようにしたらよいのか?」ということを身体の中心から考えて行く方法を伝授して下さるというものです。今回は、全く新しい視点の講座ということもあり、会場にはピアノの先生方をはじめ非常にたくさんのお客様がいらしておりました。

 松本先生によるシューマン≪トロイメライ≫の、音を自由自在に操るような演奏で幕を開けた当講座は、前半に座学、後半に実践という流れで進行されました。なお、今回は≪革命エチュード≫、≪英雄ポロネーズ≫、≪スケルツォ第2番≫、シューマン≪謝肉祭≫の各冒頭を例に取り上げられました。

 講座の前半は、まず、松本先生がショパンの≪革命エチュード≫を演奏する姿を側面と背面から映した映像を用いながら、宮坂先生が演奏時の骨や筋肉の動きなどを細かく解説してくださいました。こうして見てみると、冒頭のわずか数小節だけでも、松本先生の身体の筋肉は、まるでスポーツ選手と同様にハードな動きをしていることに驚きました。

 続いて、「体幹部の使い方」、「上肢の使い方」、「演奏に活かすポイント」に焦点を当て解説してくださいました。

体幹部の使い方

 ここでは、骨盤の使い方と肋骨と腹圧の働きについてお話しされました。背骨には、24個の骨があり、その動きには「前後」、「左右」、「捻り」といった3つのタイプに分かれます。そのため、ご自身または生徒さんが、どのパターンの動きが得意かということを見極めることがポイントになります。その動きをスムーズにするためにも骨盤の重心を安定させることが大切です。効果的な方法として、地面にコンセントがあると思って、骨盤の付け根(坐骨)を地面に押し付けるようにして座ると自然と姿勢が良くなることを教示してくださいました。

 つづいて、肋骨と腹筋の働きについては、腹筋は4層に分かれており、中でもくびれを作る腹横筋が収縮することで、身体の上下運動ができているとのことです。また、息を吸うときに肋骨が開き、吐くときに元に戻るというように、呼吸をするときには、腹筋だけでなく肋骨も連動していることもお教え下さいました。

上肢の使い方

 ここでは、特に腕の動きについて解説されました。腕を動かすには、肩甲骨と鎖骨を連動させることが重要とのことです。また、肘の使い方も大切で、肘は背骨の筋肉から動かすつもりで肩甲骨と連動して動かすこと、人間の腕は鎖骨からはえているので、鎖骨とも連動させることを意識するとよいとアドバイスして下さいました。

演奏に活かすポイント

 ここでは、再び松本先生の演奏姿の映像を用い、以上の身体の動きがどのようにして実際の演奏に活用されているか見て行きました。≪英雄ポロネーズ≫では、上手な骨盤の使い方により、重心がどっしりと安定していることでダイナミックな表現がなされていること、≪謝肉祭≫では、肋骨と肩甲骨、肩甲骨と肘の連動により、硬くならず、ふくよかでたっぷりとした音色が実現していること、≪スケルツォ第2番≫では、pからfへの強弱の素早い変化を表現する上で腹筋と肋骨の連動が効果的に用いられていることがわかります。松本先生の演奏時の身体の動きはダイナミックですが、骨盤の左右の動きが大きく、重心が安定し、両腕が自由に動いていることを実感いたしました。

 後半はいよいよ実践です。今回は、3名の生徒さんに前半で取り上げられた曲を演奏していただき、松本先生は演奏家の立場で、宮坂先生はトレーナーの立場でそれぞれの悩みに合った身体の使い方や効果的なエクササイズをご指導くださいました。

 最初は竹中結紀さんで、≪革命エチュード≫を演奏されました。竹中さんは「キレのある、はっきりとした音を出したい。」とのこと。キレがあってしなやかな音を出すには、キレのある動きをすることと同時に、肩の力を抜くことで音を出します。このとき、肋骨と肩の連動が大切で、肋骨の動きで肩が自然に上がればよいとのことです。肋骨のあたりにバンテージを巻いて、呼吸をしながらイメージをつかむエクササイズを教示して下さいました。

 続いて登場された坂本文香さんは≪謝肉祭≫を演奏されました。坂本さんは、「深みがあり重みのある音を出したい。」とのこと。そのためには、腰が硬くならないようにすることが大切で、腰をストンと沈めて、背骨がバネのようにしなやかに動かすことが重要となります。この動きのためのエクササイズは、椅子または手を置いて、息を吐くと同時に背中を丸めて椅子に重さを乗せるというものです。また、腹筋に力を入れる方法として、ボールを抱きしめて呼吸するエクササイズを、鍵盤に腕の重さを乗せる練習として、バランスボールまたはやわらかいものに手を乗せる方法もご指導下さいました。

 最後は大坪愛さんで、≪英雄ポロネーズ≫を演奏されました。大坪さんは、「大きい音を出すときに肘に力が入る」とのこと。この曲は迫力を出しつつ、先のために余力を残していくこと、ある一定の範囲ごとに、多彩な身体の動きをすることと、呼吸の段階を考えながら弾くことが大切。このことを実践するために、呼吸の強弱と共に肘の開閉を連動させるエクササイズとして、ボールを脇の下に抱え呼吸しながら肘の開閉をする方法と、骨盤の左右の動きをできるようにする方法として、バランスボールまたは椅子に座って骨盤を左右に動かすエクササイズをご指導下さいました。

 先生方のアドバイスの後、三名の方々の演奏は、まるで魔法がかかったように自由で伸びやかなものへと変化して行きました。

 自身の身体の動きをしっかりと知ることが、良い音楽を表現するための第一歩であることを実感した驚きの2時間でした。講座の終了後も多くの受講者の方々が列をなし、先生方と熱心な質問のやり取りをされていました。

(K.S)

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