トップページ

コンサート情報

トピックス

概要

KMFミュージックフレンズ

CDメディア

リンク

 ホーム(ニュース) > 公開講座シリーズ > 西原 稔 公開講座(3回シリーズ) > 開催レポート

KMAP
西原 稔 公開講座 開催レポート
ベートーヴェン 楽譜から読み解くピアノソナタ(3回シリーズ)第1回
2013年1月30日(水) 開場10:00 開講 10:30〜12:30
講師:西原 稔

会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 

 桐朋学園大学教授、西原稔先生による新しい公開講座シリーズが本日より始まりました。今回の講座のテーマは、ピアノを弾く人なら誰もが避けては通れないベートーヴェンのピアノソナタ。ピアノ講師の方を中心とする熱心な受講者の皆様で会場はほぼ満席となり、その人気のほどがうかがわれました。

 第1回の講座で取り上げられたのは、《ピアノソナタ 第8番 ハ短調 作品13「悲愴」》、《第16番 ト長調 作品31-1》、《第28番 イ長調 作品101》の3曲です。ベートーヴェンのスケッチ帳の翻刻や、クラウディオ・アラウ、アルトゥール・シュナーベルら名ピアニストによる校訂版などを含む豊富な譜例、そして様々な演奏の録音を用いて、今回も濃密なレクチャーが展開されました。

 よく知られているように、ベートーヴェンの作品はいくつかの限られた動機の丹念な労作を通じて、きわめて緊密に構成されています。出版譜を通して私たちが出会う作品の姿は、いわば「完成形」。この日の講座で西原先生は、作品の詳細な分析やスケッチ帳の研究を通して、そうした最終的な形に至るまでの作曲家の思考や創作プロセスを追うことの面白さを教えてくださいました。次から次へと繰り出されるトピックのうち、筆者が個人的に特に興味深く感じたのは、ベートーヴェンがウィーンでの修行時代に勉強していた作曲の教科書の課題そっくりの音型が彼のいくつかのソナタの中に登場している、という話題です。ベートーヴェンのソナタの楽譜を、師のアルブレヒツベルガーの対位法の教科書と突き合わせて見比べてみると、「なるほど」!「楽聖」と崇められる作曲家も、作曲理論を一生懸命勉強していた時代もあったのだなあ、と考えるとなんだか親しみがわきますね。

 「ソナタ」をめぐって試行錯誤をしてきたのは、もちろん作曲家だけではありません。演奏する人間、教える人間もまた、多様な解釈が可能な楽譜を前にして悩むことしばしばです。たとえば、有名な「悲愴」ソナタの冒頭に書かれた「fp」(フォルテピアノ)という強弱の指示をどのように解釈すべきなのか――sf(スフォルツァンド)と同義なのか、あるいはfからpへとデクレッシェンドするのか――、という問題。西原先生は、ベートーヴェンの時代の楽器に近い、いわゆる「オリジナル楽器」によるこの部分の演奏例を録音で聴かせてくださり、こうした古いスタイルの楽器では音の減衰が早いため、一音のなかでfからpへのデクレッシェンドが自然にもたらされることを指摘されました。これを減衰が遅い現代の楽器で演奏する場合、音の弱まるスピードに合わせてテンポを遅くしたり、あるいはfそのものを弱く弾いて響きの量を調節したりと、演奏家によってさまざまな工夫が凝らされているのだそうです。このほかにも、作品の理解や演奏実践のヒントになる刺激的なお話が盛りだくさん。西原先生の洞察力の深さや知識の豊富さに、ただただ圧倒される2時間でした。

 次回2月22日(金)の講座では、 第13番・ 第23番「熱情」・第32番の3曲のソナタが取り上げられます。大人気の西原先生の公開講座、どうぞお見逃しなく!

(N.J.)

 ホーム(ニュース) > 公開講座シリーズ > 西原 稔 公開講座(3回シリーズ) > 開催レポート