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ピアニスト 田崎悦子 大人のためのピアノ・マスタークラス 開催レポート
Joy of Music 40+
第2回 2013年1月22日(火)10:00開場 10:30〜12:30
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」
世界的なピアニスト田崎悦子先生は、指導者としての活動も積極的に行っております。通常の公開レッスンは生徒さん1人あたり1回のレッスンで終わってしまいますが、先生のレッスンスタイルは少し違います。1人の生徒さんは必ず2回レッスンする、時には合宿形態をとってある程度の期間を生徒さん達と過ごすといったように、一度レッスンした生徒さんには必ずそのアフターケアが出来るような体制を心掛けていらっしゃいます。本日の公開講座も、1月11日の講座で出会った生徒さんとの2回目のレッスン。聴講する方々にとっても、生徒さんの上達ぶりを間近で見ることの出来る、大変貴重な時間です。最初にレッスンを受けられましたのは八杉修子さん。とても細やかに音楽創りをされる八杉さんは、ブラームスが自ら「墓場の子守歌」間奏曲と称した間奏曲と、スクリャービンが左手だけのために書いた夜想曲を、丁寧に美しい音で弾いていらっしゃいます。先生の1回目のレッスンを受けてから約10日間、スラーの弾き方や強調したい音の前後の繋ぎに注意して練習してきたそうです。そこでさらに先生の魔法が加わります。ブラームスは簡単なA-B-A´形式のとても静かな曲ですが、先生はまずピアノの音だけでなくピアノを弾く身体の動きそのものも表現手段になるのだと前置きした上で、最初のA部分は温泉に入っているように自分の身体や頭を開いて、自分身体から湯気が立っているような気分で弾いてみなさい、と指示されました。そうすると、八杉さんの音はとてものびやかな、自然なふくらみをもった音色に大変身しました。そして急に曲調が暗くなるB部分は、もっと左手の音に瞬間的な重さを出して、Aとは対照的な緊張感や苦しみを表現するように指示されました。こうしてA部分、B部分がとても表情豊かに仕上がったところで、先生はA´の部分を今度はAの思い出であるかのように、雲の上をイメージして弾いてみなさいと指示されました。最後通してみる頃には、八杉さんのブラームスはただ1つ1つの音が綺麗なだけではなく、全体のストーリーに緩急のついた、素晴らしい音楽になっていました。
次にレッスンを受けられましたのは天野鑑代さん。技術も表現力も要求されるショパンの《舟歌》を、大変華やかな音色で弾いていらっしゃいます。どのフレーズもきちんと歌うということを意識して、この第2回目のレッスンに臨んだという天野さんに、先生はさらなる細かい指示を出してゆきます。まず、天野さんが一番練習に苦労したと言う、左手の特徴的な伴奏形がオクターブで登場するところで、先生は右手のメロディーの形をもっと大切にするように指示されました。そして何回も弾いてみるうちに、それまで左手の技術的に難しいところに集中力が傾いていた天野さんの演奏は、とても立体的でバランスのとれた音楽になってゆきました。次に先生はワルツのように左手がベース音から和音を跳躍させてゆく楽曲終盤に注目しました。天野さんは倍音を響かせられているかが気になって、ベース音を出すことにばかり気が向いてしまっていたとのことでしたが、先生はこの伴奏形の中にもメロディーを見つけ、むしろ上のラインの音を意識して歌うように指示されました。すると天野さんの演奏はとても躍動感と歌心に溢れたものになりました。こうして先生は天野さんの悩みを1つずつ解決されてゆき、最後には天野さんが安心してかつ豊かな表現で演奏できるような状態にまで持ってゆきました。
田崎先生の素晴らしいところは、各々の生徒さんの性格や悩みをよく見抜いて、それぞれに合ったアドバイスをすることにあります。例えば今日の場合、どうしても楽曲の細かいところの悩みが気になってしまうという八杉さんには、楽曲全体のストーリーを組み立てることをアドバイスし、せっかく気持ちよく弾いていても難しいところで突然パニックになってしまうという天野さんには、自分の問題点を冷静に分析することをアドバイスされました。この2回1セットのレッスンシリーズはまだ続きます。次はどなたが田崎先生の魔法にかかるのか、今から大変楽しみです。
(A. T.)
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