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KMAP 演奏&おはなし
田中正也と巡るプロコフィエフ ピアノ作品の世界 第1回開催レポート
〜子供のための音楽から戦争ソナタまで〜
2012年12月5日(水) 10:30〜12:30
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」
このシリーズは、15歳でモスクワに渡り、プロコフィエフをライフワークとしてきたピアニスト田中正也さんによる、プロコフィエフの日本で定番のレパートリーから隠れた名曲までを堪能しようというイベントになります。第1回目の今日は、プロコフィエフの初期の作品と、亡命先からロシアに帰国した際に書かれた子供のための「12のやさしいピアノ曲」が扱われ、「プロコフィエフらしさ」とは何だろうということを考える場となりました。まず田中さんがご登場するなり演奏されましたのは、トッカータ作品11でした。この作品はモーターのようにひたすら動き続ける音楽の流れが特徴的で、しばしば後のプロコフィエフの円熟した作品群にも現れます。よって「これぞプロコフィエフらしい曲」とすぐに思った方も多かったのではないでしょうか。田中さんは決して乱れることのない指の運びとご本人いわく「かわいた音(指の先を巧みに用いた鋭い音)」で、スリリングに音楽を進めてゆきました。
その後、田中さんがプロコフィエフの特徴として挙げましたのが、以下の5点です。
1.古典的
2.革新的
3.モーター性(トッカータ的)
4.抒情性
5.スケルッツォ的(言い換えればグロテスク。ただしプロコフィエフ自身はこのように評されることをよく思ってはいませんでした。)最初のトッカータは、まさにこのモーター性にあたるものでした。
次に演奏されましたのは、プロコフィエフの作品の中でも常々「プロコフィエフらしくない」と言われる第1番のソナタです。作品1番ということで、プロコフィエフの作品の中でもかなり初期のものですが、これを決して「プロコフィエフらしくない≒よくない曲」として片づけることは出来ません。というのも、この作品には逆に、スクリャービンやラフマニノフといった、プロコフィエフの先輩達にあたる作曲家達の影響が色濃く表れており、ここからプロコフィエフがどうやって「自分のスタイル」を確立してゆくかが大変興味深いからです。
さてプロコフィエフの住居を改築した博物館やロシアの代表的な劇場などのトークも交えながら、田中さんが前半の最後に演奏されましたのが、《悪魔的暗示》作品4−4。やはり絶え間ない音型の動きがありながらも、どこか嘲笑するような、おどけるようなパッセージが入り混じるこの曲は、先ほどの《トッカータ》とはまた違う雰囲気になります。田中さんはこれこそ5番目の特徴であるグロテスクにあたると述べ、こうした《悪魔的暗示》に代表されるような音楽創りは、プロコフィエフ当人こそ頷かなかったものの、彼の作風を確立するのに欠かせなかったと語っていらっしゃいました。
後半は田中さんがプロコフィエフの作品の中でもとても思い入れがあると仰います、子供のための「12のやさしいピアノ曲」が中心の話題となりました。ちょうどプロコフェイフが亡命先から戻った頃の1935年に作られたこの曲集には、「雨と虹」「キリギリスの行進」といったように、自然に題材をとった作品が多く入っており、ロシアの田舎を想起させます。そしてこれら12曲は非常にシンプルで小さいながらも、それぞれ他のプロコフィエフの大曲へと繋がってゆく潜在力を持っており、田中さんは「子供のためにとあるけれども、ぜひ大人にも楽しんでほしい」と熱心に語っていらっしゃいました。そして田中さんの演奏も1曲ずつの表情や特徴を的確に捉えた大変素晴らしいもので、この曲集への想いがとても伝わってきました。
こうして素敵な演奏と興味深いモスクワの数々の写真を楽しんでいるうちに、あっという間に時間となってしまいました。このシリーズは今回がまだ初回ということで、今後の田中さんの演奏とトークもぜひ期待したいと思います。
(A. T.)
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