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日本ショパン協会 第261回例会
荒 由香里 ピアノリサイタル 開催レポート
《日本ショパン協会パウゼシリーズ Vol.18》
2012年12月1日(土) 18:30開演( 18:00開場)
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
12月1日パウゼにて、『荒由香里ピアノリサイタル(日本ショパン協会パウゼシリーズVol.18)』が開催されました。荒さんは、お茶の水女子大学を卒業後、東京音楽大学大学院を修了され、現在、ソロだけでなくアンサンブルの分野でも精力的にご活躍されている若手ピアニストです。この日、会場は非常にたくさんのお客様で賑わっており、荒さんへの期待の高さが伺われました。この日のプログラムは、「ロ短調」という調性を一つのテーマとされ、同時代に生きたショパンとリストのソナタ、後にこの2人の作曲家の影響を受けたスクリャービンの幻想曲(形式的にはソナタ形式で書かれているとのこと)で構成されていました。
前半最初に演奏されたのは、スクリャービン≪幻想曲 ロ短調≫Op.28です。スケールが大きく、なめらかな歌い回しでこの作品の魅力を引き出されていました。中でも、和声の美しさと音楽が絶えず前進するエネルギーは印象的でした。
続いて、ショパン≪ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調≫Op.58が演奏されました。各楽章とも分析的で、構造や主題の展開の仕方などがしっかりと考え込まれていました。けれども、堅苦しさを感じさせることはなく、それぞれのモティーフや音の流れに適した自然な息づかいでもって、非常に生き生きとした音楽が表現されていました。
休憩を挟み後半は、リスト≪ピアノ・ソナタ ロ短調≫です。荒さんはご自身で執筆されたプログラムノートに、この長大な作品を解釈する手掛かりの一つとしてゲーテの『ファウスト』をとりあげていらっしゃいました。荒さんの非常に表情豊かで物語性に富んだ演奏から、音楽を通して『ファウスト』の話をきいているようでした。このソナタでは、モティーフが様々な形に変容していきますが、悪魔的な響きのする箇所は、悪魔メフィストフェレス、甘く天上的な美しさを表現している箇所は、主人公ファウスト博士の恋人グレートヒェン…などといった想像を巡らせながら、楽しんで聴き入ることができました。約30分に及ぶ大曲を抜群の集中力と音楽性で演奏された荒さんに、客席から盛大な拍手が贈られました。
鳴りやまない拍手にこたえ、荒さんは客席の皆様にご挨拶をされ、アンコールを披露してくださいました。今回演奏してくださったのは、荒さんの「一番大好きな曲」であるリスト≪愛の夢 第3番≫です。ロマンティックで温かい音楽に包まれてリサイタルは幕を閉じました。
この日は、なんと、荒さんが7年前に初めてのリサイタルを行われた日にちと同じとのことで、プログラムノートに「今日は私の精一杯の力を出しきり、そして新たなスタートを切る、そんな演奏会にしたいと思います。」と述べておられました。その熱く真摯な思いが演奏に反映されており、聴き手を幸せな気持ちにさせてくれるような大変素晴らしいリサイタルでした。これからの更なるご活躍を期待しております。
(K.S)
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