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KSCO
〜ヨーロッパ CDデビューを記念して〜
稲田潤子 ピアノリサイタル 開催レポート
“今、ドビュッシーとラフマニノフが熱い!!”
2012年11月15日(木) 19:00開演( 18:30開場)
会場:紀尾井ホール
11月15日、紀尾井ホールにて稲田潤子さんのピアノリサイタルが開催されました。稲田さんはラフマニノフ国際コンクール3位を受賞されてから今年で15年目を迎え、オール ラフマニノフ プログラムでヨーロッパCDデビューをされました。この日は、その記念リサイタルということもあり、会場からあふれるほどのたくさんのお客様で賑わっていました。前半は今年で生誕150周年を迎えるドビュッシーの作品が並べられています。最初に演奏されたのは、初期に作曲された≪ベルガマスク組曲≫です。<前奏曲>、<メヌエット>、<月の光>、<パスピエ>といった古風なスタイルで構成されていますが、響きは後の作風に通じるような新しい要素が感じられます。稲田さんは、これら2つの要素を上手く融合し、作品に漂う香りを巧みに表現されていました。筆者の印象に残ったのは<月の光>で、稲田さんの繊細にコントロールされたタッチとホールの音響が一体となって創りだされた幻想的な響きは、えも言われぬ美しさでした。
続いて、円熟期に書かれた≪前奏曲集第2巻≫より、<ヴィーノの門>、<妖精はよい踊り子>、<風変りなラヴィーヌ将軍>、<オンディーヌ>、<花火>が演奏されました。この曲集は、ドビュッシーの音楽語法が確立した時期に作曲され、自由で独創性に富んでいます。今回演奏された5曲も、作品中の独特な音響効果が巧みに表され、実際にそれらの光景を見ているかのように鮮明な描写がなされていました。
後半は、ラフマニノフで、≪コレルリの主題による変奏曲≫Op.42で始まりました。この曲の「コレルリの主題」とは、コレルリ作曲『ヴァイオリンソナタ』Op.5の終曲で用いられている「フォリア」のことです。これはポルトガル起源の古い舞曲で、17世紀から18世紀の作曲家の多くはこの旋律をもとに変奏曲を作曲しました。ヴィルトゥオーゾピアニストとしても有名であったラフマニノフらしく大規模で技巧的な作品です。稲田さんは、鮮やかなテクニックと豊な音色で、ラフマニノフの世界観が凝縮されたこの曲を見事に演奏されていました。
大曲の後は、初期に作曲された≪夜想曲 嬰へ短調≫です。哀愁漂う旋律と、ドラマティックな和声が大変美しく表現されていました。
最後は、≪13の前奏曲≫Op.32より、鐘の音が無数に鳴り響くような<第10番 ロ短調>、雪がパラパラと舞っているような<第12番 嬰ト短調>、限りなく壮大な<第13番 変ニ長調>をスケールの大きな演奏で聴かせてくださいました。この作品では、ロシアの広大な自然を賛美し、表現されているようですが、自然現象を描写している点では、前半のドビュッシーの前奏曲集に通じるものがあります。ドビュッシーとはまた違った趣があり非常に興味深かったです。ダイナミックな演奏を聴かせてくださった稲田さんに「ブラヴォー!」の歓声とともに客席から盛大な拍手が贈られました。
アンコールは、ラフマニノフ≪前奏曲 ト長調≫Op.32-5、プロコフィエフ≪4つの小品≫Op.4より<悪魔的暗示>、プーランク≪常動曲 第1番≫を演奏してくださいました。同時代を生きた2人の作曲家の個性の違いを楽しめた充実したリサイタルでした。素晴らしい演奏をありがとうございました。
ロビーでは、稲田さんの新作CD『Sergei Rachmaninov』が販売され、終演後に行われたサイン会では長蛇の列ができていました。
(K.S)
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