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KSCO
フジタ・ピアノトリオ「かくれた名曲」開催レポート
2012年11月4日(日) 14:00開演 13:30開場
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」
本日は、ヨーロッパでご活躍の藤田めぐみさん/ほのかさん/ありささんの三姉妹による、ピアノ三重奏のコンサートが開催されました。休日のお昼に開催ということで、開演前からパウゼは多くのお客様で賑わいました。フジタ・ピアノトリオの最大の魅力は、表現の多様性と言えるでしょう。真珠のような繊細な輝きから、黒漆のような力強い色まで、たくさんの表現の引き出しを持つ三姉妹。本日のコンサート・プログラムでは、ハイドン、ショスタコーヴィチ、メンデルスゾーンと全く違うスタイルを持つ作曲家の作品が演奏され、お三方の表現力を充分に味わうことが出来ました。
最初に演奏されましたのは、爽快な印象を持つハイドンのピアノ三重奏ハ長調。お三方とも曲想に合わせた音色での演奏でした。柔和な響きで軽やかに駆けてゆくめぐみさんのピアノに、ありささんの舞い上がるようなヴァイオリンと、ほのかさんの優しくも力強いチェロが重なったとても心地よいアンサンブルを、お客様も晴れやかな表情で聴いていました。
さて次のショスタコーヴィチのピアノ三重奏で、会場の空気は一転。先ほどまでの青空の下にいるかのような雰囲気は、一気に魔女の洞窟にでも入ったかのような恐ろしい雰囲気に変わってゆきました。このショスタコーヴィチの作品は、1944年、まさに第2次世界大戦の惨禍を人々が目の当りにした頃に書かれました。第1楽章では、異常に高い音程でのチェロに始まる不気味なフーガが、やがて息の詰まりそうな同音連打を生み出し、激しさを増してゆきます。第2楽章は怪しい明るさに満ちたスケルッツォ。第3楽章では苦しげな和音を奏で続けるピアノに、哀しそうなチェロとヴァイオリンのメロディーが漂い、第4楽章では荒れ狂う音楽の後に第1楽章のテーマが戻り、楽曲は収束してゆきます。お三方の演奏は激しさと冷たさを併せ持ったもので、この作品に求められる様々な楽器の表情と、独特の世界観を見事に表現していました。客席も緊張感に包まれ、演奏後にはブラヴォーの声が挙がりました。
最後に演奏されましたのは、メンデルスゾーンのハ短調のピアノ三重奏第2番。メンデルスゾーンのピアノ三重奏と言いますと、第1番ニ短調が非常に有名ですが、このハ短調の三重奏も非常に魅力的です。先のバロック時代を想わせるような厳粛な美しさと、これからのロマン主義時代を想わせるような陶酔的な美しさを兼ねたこの作品もまた、お三方の表現力を引き出すのにぴったりのプログラムでした。特に全体のプログラムの最後ともなりました第4楽章は、三人三様の音色による印象的なテーマの掛け合いがとても美しく、終盤の音楽が最も盛り上がるところでは3台の楽器で演奏しているとは思えないほどの華麗さがあり、とても聴き応えがありました。もちろんこの演奏の後にもブラヴォーの声が多々ありました。
こうした三姉妹の素晴らしい演奏で、楽しい時間はあっという間に過ぎてゆきました。ピアノ三重奏の美しさをたっぷりと味わうことの出来た、本当に素敵な午後のひと時でした。
(A. T.)
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