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◆ ドビュッシー・フェスティバル2012 〜ドビュッシー生誕150周年記念〜
講演「ドビュッシーのピアノ作品」〜作曲家の言葉を手がかりに〜 開催レポート
10月26日(金)
開場 10:00 開講 10:30 
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」 
講師:松橋 麻利

 

 ドビュッシー・フェスティバル2012、最終日の講演者は、19〜20世紀のフランス音楽をご専門に研究されている音楽学者の松橋麻利先生です。「ドビュッシーのピアノ作品」というテーマのもとで松橋先生が取り上げられたのは、意外にも《スケッチ帳から Dユun cahier dユesquisses》。ドビュッシーのピアノ曲の中でも、演奏される機会が最も少ないもののうちに入る作品です。演奏時間にしてほんの5分足らずの小品ながら、そこから松橋先生が展開されたお話は驚くほど内容の濃いものでした。様々な角度から緻密に練られた講演内容の全てをここに記すことは出来ませんが、筆者にとってとりわけ興味深いと思われた点を二つほど挙げてみます。

 一つは、作品自体の来歴です。《スケッチ帳から》と同時期に作曲された曲として《喜びの島》《仮面》がありますが、この3曲は当初一つの組曲――「幻の」《ベルガマスク組曲》(今日の同名の組曲とは異なるもの)――として構想された可能性が高いとのこと。諸般の事情で最終的にはそれぞれ単独の作品として発表されたわけですが、改めて3曲を一組のものとして眺めてみると、異なる貌が見えてくるように思います。

 もう一つのポイントは、「スケッチ」というコンセプトと、そのあらわれともいえる形式上の特徴です。作品を伝統的な形式の枠に収めてしまうのではなく、「音の歩み自体の中に想像力の様々な驚きを内包」(P. ブーレーズ)するような、自由で斬新な構成をとっている点で、この曲はドビュッシーの創作史の中でも大きな転換点を示しているというお話でした。《海》や《夜想曲》といった管弦楽の傑作にも通じるこの特徴は、ドビュッシー音楽の要ともいえる「自然」の思想につながるとのこと。音と言葉の両面から彼の創作の謎が一つ一つ解き明かされるプロセスは、とても説得力のあるものでした。

 ドビュッシーの創作美学の核心に鋭く迫りつつ、イマジネーションに富むその音楽そのものの魅力を再発見させてくれる、実にスリリングな講演でした。

(N.J.)

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