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ドビュッシー生誕150周年記念
中井正子“ドビュッシー紀行”開催レポート
〜ドビュッシーの音楽を背景に中井正子とパリの街を歩く!
「演奏&レクチャー」(全5回シリーズ)〜
<第5章 晩年>
2012年11月9日(金) 10:30 開演(10:30〜12:30)
講師:中井正子
主催:カワイ音楽振興会
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 

 

 今朝は中井正子先生による「ドビュッシー紀行」の最終シリーズが開催されました。若年よりパリでの留学経験を持つ中井先生は、ピアニストとしての功績はもちろんのこと、フランスものの作品を中心に楽譜の校訂等も積極的に行っています。本日のレクチャーは、そんな中井先生の演奏に加え、パリの風景やドビュッシーの様々な表情を写した写真も楽しめるという、大変内容の濃いものでした。

 レクチャー全体を通して中井先生が強調されていたのは、ドビュッシーは単にクラシカルな音楽の作曲家(あるいはピアニスト)として秀でていただけではなく、当時の流行にとても敏感であったこと。前半に演奏&レクチャーされました≪レントより遅く≫や≪子供の領分≫そしてそれらの作品を取り巻くエピソードからは、ドビュッシーがいかに当時の人々をよく観察し、彼らの感覚をいち早く作品に採り入れていたかが伝わってきます。「レントより遅く」というタイトルは、アメリカ風のスローワルツを指しています。よってこの曲を演奏するには、ワルツのリズム感に留意する必要があります。先生が紹介してくださったオーケストラ版では、ツィンバロというジプシーの楽器が加わり、さらに独特な雰囲気が漂っています。続く≪子供の領分≫はドビュッシーの愛娘シュシュの写真を映しながらのレクチャーでした。各曲に可愛らしいタイトルがついているこの組曲ですが、注意深く楽譜を読むと、当時のピアノ練習の習慣、影響力のあった作曲家、新しいリズムや技法など、同時代の音楽事情が次々と浮かび上がります。特に本日中心に取り上げられた第6曲<ゴリウォーグのケークウォーク>はラグタイムからワーグナーのパロディまで、あらゆる素材が見事に集約されています。中井先生の熱のこもったお話ぶりからも、この作品の奥深さが伝わってきました。

 ≪アラベスク≫第1番、≪12の練習曲≫より<組み合わされたアルベジオのための>のレクチャーが、晩年のドビュッシーの生涯を追いながら行われました。ここで先生がドビュッシーの作品について強調されたのが、彼の音響の立体感。ドビュシーはどの音を選ぶかだけでなく、どの音域をどんなテンポで出してくるかによって、非常に立体的な音響を生み出しました。それを実現するには、楽譜をよく読み込んで楽曲の構図を理解しなければなりません。≪12の練習曲≫が単なる指の練習に留まらず、様々な楽曲の様式も学ぶためのものであったというお話や、金欠だったドビュッシーがお金の代わりに<炭火の温かさに照らし出された夕べ>という曲を渡したというエピソードも印象的でした。

 最後までお客様は中井先生の美しい演奏と興味深いお話に耳を傾けていました。ドビュッシーの晩年の輝きを存分に味わったひと時でした。

(A. T. )

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