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菅野雅紀 レクチャー & コンサート 開催レポート
2012年2月2日(木) 19:00開演( 18:30開場)
主催:カワイ音楽振興会
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 

 現代音楽の演奏を難しくしている「犯人」は誰か?というユニークな切り口から始まったレクチャー。その犯人は「寡作」ではないか、と菅野さんは意外な仮説を立てます。邦人作曲家のピアノ作品は全体的に数が少ない上に、絶版、あるいは未出版作品も多いのです。そのため、現代音楽作品を演奏する機会といえば、コンクールでの新作委嘱や入試の指定課題に限られてしまっている、という現状が説明されました。

 続いて、楽譜から作曲家の意図を読み取る、というテーマで、武満徹の作品を中心に見ていきます。焦点となったのは、武満の時間感覚です。≪遮られない休息≫(1952-1959)では、拍子と明確な小節線がなく、音のまとまりを独特の記譜法で表現し、テンポは秒数で指定するなどの特徴が、菅野さんのわかりやすい解説と、パワーポイントによる譜例により示され、武満の時間感覚の面白さと、記譜の工夫が視覚的にも明らかになりました。更に演奏速度の問題として、≪雨の樹 素描≫シリーズのように武満の作品には、軸となる2つの異なるテンポ、Tempo IとTempo IIが設定されていることが多く、演奏に当たってはテンポ設定に厳密な区別が必要かと思われがちです。しかし、菅野さんは、武満は自作が演奏されるのを聴いているときに、しばしば楽譜のテンポ指定よりも遅く弾いてほしいと要求しながらも、それを新たに書き改めることはしなかった、という知られざるエピソードをあげ、武満はテンポについて柔軟に捉えていたのではないか、と自説を語りました。解説後に行われた演奏は、楽譜を深く読み込んだ上で考え抜かれたテンポ設定が効果的になされていて、非常に説得力のあるものでした。

 続いて取り上げられたのは≪雨の樹 素描≫(1982)。この作品には同一の音型を繰り返すミニマリズムを連想させる箇所があります。菅野さんは、同じ現代音楽の技法を使用していても、その手法を用いて何を表現しようとしたかは作曲家によって全く違います、と語り、同じミニマリズムを用いた一柳慧≪雲の表情 I≫と≪雨の樹 素描≫を続けて演奏されました。≪雲の表情≫は、ミニマリズムの「手法」への興味が感じられるのに対し、≪雨の樹 素描≫では、「雨の樹」というタイトルから想像できるように、繰り返される音の粒が、聴き手のイメージを呼び起こします。同じ技法を用いながらも、タイプの異なる曲を弾き分ける菅野さんの演奏は素晴らしいものでした。

 最後に、美しい和声の響きを持つ作品として、武満の≪雨の樹 素描II≫と、間宮芳生≪6つの前奏曲≫(1977-1984)より、日本古謡の子守唄とジャズ風の響きを融合した<III.ひかげ通りの子守唄>、東北地方のわらべうたとドビュッシー風の全音階的な和声が組み合わされた<I. 夕日のなかの子供達>が演奏されました。どこか懐かしい旋律を、心を込めて歌い上げるような音楽が印象的でした。

 演奏終了後に設けられた質問コーナーでは、客席のピアニストの方から「邦人作品をプログラムに組み入れる際に心がけていることは?」というご質問が。菅野さんは、「例えば間宮芳生とバルトーク、といった似た要素を持つ作品を並べるのは面白いが、それぞれは全く違う作品ですから、その弾き分けが難しいです」と応えられて、終始和やかな雰囲気のレクチャーもお開きとなりました。 

(S.Y.)

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