5月24日(火)12時より表参道コンサートサロン「パウゼ」にて、「東日本大震災復興支援チャリティーコンサート」が催されました。このチャリティーコンサートも今日で6回目。毎回、日本を代表する著名なピアニストや今後が楽しみな若手ピアニストにご出演いただいています。今日のピアニストは演奏順に、東誠三さん、迫昭嘉さん、北川曉子さんの3人だっただけに、お客様はさぞかし今日の演奏会を楽しみになさっていたのではないでしょうか。小雨が降るなか、大勢のお客様が足を運んで下さり、会場は満席となりました。
東さんはモーツァルト《ロンド ニ長調》K.
485とベートーヴェン《ピアノ・ソナタ 第23番》「熱情」を聴かせて下さいました。モーツァルトK.
485の有名な旋律は、クリスチャン・バッハ(J. S.
バッハの末息子)の《フルート、オーボエ、ヴァイオリン、ヴィオラとチェロのための五重奏曲》第1楽章から借用されたものです。その旋律に前打音を加えたり、軽快なリズムを用いることで、いかにもモーツァルトらしい旋律となっています。さらに、今日の演奏では、転調するたびに起こる音のニュアンスの絶妙な変化を楽しむことができました。モーツァルトとは対照的に、ベートーヴェンでは重厚な響きと圧倒的な力強さが際立ち、圧巻の演奏でした。大きな拍手はなかなか鳴り止まず、客席のあちこちで「今日聴きに来て良かった!」「本当にすばらしかった!」という声が聞こえてきました。
迫さんは、グリーグ《組曲「ホルベアの時代より」》op.
40と、ベートーヴェン《ピアノ・ソナタ 第14番》「月光」を演奏して下さいました。“ホルベア(ホルベルク)”とはノルウェーを代表する作家で、「ノルウェー文学の父」という愛称で親しまれています。ホルベアの生誕200年祭(1884年、グリーグ40歳)のために、この《組曲「ホルベアの時代より」》を作曲しました。この曲は5つの舞曲(前奏曲、サラバンド、ガヴォットとミュゼット、アリア、リゴドン)から構成されていることからも分かる通り、ホルベアが生きていた時代の音楽(バロック音楽)の様式で書かれています。バロック音楽の雰囲気を保ちつつも、グリーグならではの豊かな響きを充分に聞かせてくれた迫さんの演奏からは、懐かしさや温かみが感じられました。ベートーヴェン「月光」では第1楽章、第2楽章を経て、第3楽章での感情の激しい爆発が非常に印象的でした。
北川さんは、シューベルト=リスト《アヴェ・マリア》、《セレナーデ》、《鱒》、《魔王》と、クライスラー=ラフマニノフ《愛の哀しみ》、《愛の喜び》の計6曲を聴かせて下さいました。初めの4曲はシューベルトの作品をリストが編曲した曲で、残りの2曲は同様にクライスラーの作品をラフマニノフが編曲した曲です。このような既存の曲(特に人気のある歌曲やオペラ・アリア)のピアノ独奏用への編曲は、リストによって多く行われました。今日の曲目は原曲が非常によく知られた曲ばかりだったので、原曲にはない部分や、原曲との音色の違いなど、新たな発見が多くあったのではないでしょうか。また、リストもラフマニノフも超絶技巧をふんだんに用いており、聴覚的にも視覚的にも楽しめるプログラム構成だったと思います。
(A・ H)