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リストフェスティバル2011 in 表参道
公開レッスン 開催レポート
「ピアノ・ソナタ ロ短調」
2011年10月25日(火)13:30開演(13:00開場)
会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」
主催:東京藝術大学音楽学部 協賛:カワイ音楽振興会
講師:渡辺健二 受講者:東京藝術大学音楽学部学生

 

 東京藝術大学が主催し、カワイ音楽振興会の協力によって開催している「リストフェスティバル2011」。第4日目の10月25日に同大学の渡辺健二先生による公開レッスンがあり、リスト演奏の真髄に迫りました。曲目はリストの最高傑作の一つに数えられる《ソナタロ短調》で、門下生の山中さんがレッスンを受け、それを聴衆が見学する形で行われました。先生と学生がやりとりを交わすだけでなく、渡辺先生がリストや曲のことを聴衆に説明する場面も何度か見られました。ここでは、読者のみなさんにとって演奏のヒントになりそうなことをまとめてご報告します。

 最初に山中さんが通して弾き終えたあと、渡辺先生がまず話題にしたのは、この30分もかかる大曲をいかにまとめるか、ということでした。ただ単純にひとつながりの音楽として脈絡なく弾くのでは芸がありません。構成を考えることで全体を見通すことができ、より重要な箇所をどう弾くかや、そこへの持って行き方が自ずと分かってきます。全体を4つの部分に分け、それらをソナタの4つの楽章と捉えることができると言います。そうすると、たとえば第二の部分が始まる第331小節からはそれまでの部分とはコントラストをつけて、といったことを意識するようになります。

 次に、曲全体のまとまりをつけるのに、そのおおもとになっているモチーフを把握することは重要です。曲中のあらゆるフレーズは5つの主要モチーフから生まれ、それも、渡辺先生によればゲーテの『ファウスト』に関連させて解釈できるそうです。標題がついていなくても、なるほど、自主的な理解ですね。第三に、聴き手を飽きさせないようにする音楽の運び方を考えます。つまりテンポの設定については、全体の基本となるテンポを第18小節付近のフレーズから取り、冒頭のようなゆっくりの部分はその半分のテンポとするなどして大枠を決めます。最後に、強弱の段階を守ることを忘れてはなりません。特に、音量の指示が最高となるfffの箇所(全部で5か所)を把握します。また、それぞれの強弱がもっている性格をいつも気にします。たとえば第32小節のfは出したい気持ちにさせますが、fというキャラクターから逸脱しないようにします。

 奏法について細かいこともたくさん指摘がありました。オクターブを弾くときは背中を使って、指は鍵盤上を舞うように、とリストが言っていること。第153小節からのcantandoの部分は女性的に、叙情的に、オペラ歌手のように、ただしテンポを見失わないように。第245小節のようなパッセージでは、ハーモニーの変わっているところに重きをおくこと。第755小節終わりのクレッシェンドは、物理的にはどうしようもできないが、次のpppへの入り方や、その和音の響かせ方で何かすることはできるということなどなど。話題は尽きません。

 二時間ではもの足りなく感じられたほど、内容の充実したレッスンでした。もっと深めたい方は、先ごろ全音から出版されたエディションを参考になさるといいと思います。今まで以上に魅力的で、素敵な演奏に結びつきますように。

 (T.)

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