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中井正子公開講座 開催レポート
〜ピアノテクニックシリーズ第3回(全5回シリーズ)〜
2011年7月20日(水) 10:30 開演(10:30〜12:30)
主催:カワイ音楽振興会

会場:カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ 」

 7月20日(水)、中井正子先生による公開講座『ピアノテクニックシリーズ』(第3回)を聴講してきました。今回のテーマはバッハ《シンフォニア》。日本列島に大型台風が接近し、東京でも雨風が強かった不安定な天気の中、大勢のお客様にお集まりいただきました。

 レクチャー冒頭では、《シンフォニア》の導入も兼ねて、前回の復習がありました。「バッハはどのような目的で、《インヴェンション》と《シンフォニア》を作曲し、1冊の曲集としてまとめたのか。」中井先生は以下の3点をご指摘なさっていました。
 (1)2声および3声の巧みな演奏技術の習得
 (2)カンタービレな奏法の習得
 (3)作曲の予備知識の習得
明らかに教育目的だったことが窺えます。これらの目的をふまえ、「分析を通して、バッハ自身が意図していた演奏を探り、どのようにバッハ作品を演奏したらよいのか」、その方法と練習上の留意点について、中井先生はシンフォニア第1番C durを例に、有益な情報を私たちにたくさん伝授してくださいました。

 まず、中井先生はシンフォニア第1番の分析をされました。以下、箇条書きでご紹介します。

・主題の中心が音階的な音型である

 インヴェンション第1番の主題は、5本の指をひっくり返さずに弾けるが、シンフォニア第1番では9度まで音域が広がっているため、指のひっくり返しが必要とされる

 →インヴェンションよりレベルアップ
・掛留音を各声部に散りばめている
 例えば、第3小節目アルト、第8小節目ソプラノ
・(旋法的)終止型を見つけ、区切りを感じる
 例えば、第6小節目4拍目-第7小節目1拍目、第10小節目2-3拍目
・主題展開技法にどのような種類が用いられているか
 基本形
 反行形(例えば、第4小節目バス)
 ストレッタ(=主題が終わらないうちに応答を導入する手法)
 (例えば、第10小節目3拍目-第11小節目、第16小節目)
 部分動機(例えば、第7-8小節目)
・小節構造が不規則になっている
 まとまりが2小節ごとになったり、1.5小節ごとになったりする

このような分析をすると、音楽の方向性や作品中の一番の頂点(盛り上がり)をただなんとなくではなく、理論的に根拠付けることができますね。

次に、中井先生は具体的な練習方法を示して下さいました。

(1)難しくても最初は3声全部同時に弾く  
ポイントは、初めの段階では1声部ずつ、あるいは右手だけ左手だけで練習しないこと。指使いを先に固定するためだそうです。

(2)(指使いが決まったら)声部ごとに練習する
ポイントは、長い音価の音を短縮して弾くのではなく(そうなりがちですが)、音価通り正しい長さ・リズムで弾くこと。さらに、音価の長い音をのばしている間、動きのある他声部を頭で鳴り響かせながら練習すること(音が鳴らないように、実際に指を動かしてみるのも効果的)。練習時のコツとしては、タイの音や掛留音の最後を聞くことだそうです。例えば、第5小節目3拍目からアルトはD音を受け持ちますが、この音の最後(第6小節目1拍目)でD音を注意して聞くということです。

この練習において、最も難しいのはアルトだけ取り出す時です。というのも、アルトでは1声部の中で右手から左手に移ったり、その逆もあるからです。片方の手からもう一方の手へ移る時、段差ができないように、まるで1本の手で弾いているように聞こえるまで練習してほしいとのことでした。

(3)(1声部ずつできるようになったら)2声部を組み合わせて練習する
ここでのポイントは、「弾き分け」と「いなくならないこと」です。まず、強弱ではなく、音質によって声部ごとに音の違いを作り、各声部を弾き分けられるようになりましょう。この時、難しいのがソプラノとアルト、アルトとバスの組み合わせ。同じ手の中で弾き方を変えなければならないからです。同じ手の中でエネルギーのかけ方を変えてみたり、そういう箇所だけ取り出して練習してみて下さい。

そして、2声部同時に弾くと、どちらかの声部の音価が正しい長さで保てず、音が消えてしまうことが多くありますが、その場その場の響きを注意深く聞き、「いなくならない」練習をしましょう。これは今日のレクチャーの中で、中井先生が特に強調なさっていた点です。例えば、第8小節目3-4拍目でソプラノが掛留音になる時、注意が必要です。

地道ですが、このように段階を追って練習することで、3声同時に鳴り響いた時に、ある声部だけでなく、3つの声部を対等に聞くことができるようになるそうです。

 そして最後に、中井先生はバッハ作品を演奏する時の姿勢についてお話して下さいました。「情緒(=アフェクト)はあるけれども、それは客観的な情緒であって、シンプルに淡々と弾いて下さい。その情緒に(ロマン派のように)思い入れを入れてはいけません。バロック時代に固有の情緒を表現するのが、バッハ音楽の特徴です。」

 次回は9月8日(木)。モーツァルトのソナタと幻想曲を取り上げて下さる予定です。今後のレクチャーも乞うご期待です!!今日も分かりやすく、充実したお話をありがとうございました。

                                         (A・H)

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