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ミュンヘン音楽大学教授
今峰由香 ピアノ公開講座 開催レポート
〜シューベルトのピアノ曲の魅力…ヨーロッパのレッスン風景から〜
2011年4月22日(金) 10:30〜12:30
主催:カワイ音楽振興会
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
4月22日パウゼにて、ドイツ、イタリアで研鑽を積まれた後、2002年に、弱冠32歳にしてミュンヘン国立音楽大学のピアノ科教授に就任された今峰由香先生の公開講座が行われました。今回のテーマは、日本だけでなくヨーロッパでも人気が高いといわれるシューベルト。その中でも、最も有名で、教材に取り上げられることの多い≪即興曲 作品90≫より、<第2番 変ホ長調>、<第3番 変ト長調>、<第4番 変イ長調>と≪ソナタ イ長調D.664≫を取り上げられました。日本とヨーロッパのレッスンの比較やシューベルトの生涯などにも触れながらの丁寧で密度の濃いレクチャーに、会場の皆様は熱心に耳を傾けておられました。前半は、シューベルトが亡くなる1年前に作曲された≪即興曲 作品90≫についてです。まず、先生による全曲通し演奏が行われ、聴き手は楽譜を眺めずに、音からのイメージをつかみ取りながら演奏を聴き、各曲ごとに解説が行われた後、楽譜を確認しながら、再び演奏を聴く、という形で進められました。ここでは、シューベルトの長調で書かれた作品には、明るく楽しげな作品であっても、「そうであったらいいのに。」というような憧れが表現されており哀愁を含んでいること、曲中に現れる調性の変化や減七の和音、アクセントや極端なほどの強弱の変化などは、さすらいや、不安定な心情の変化が表現されていること、sfは周りの強弱記号に合わせて加減して弾くことや、シューベルトは、decress.とdim.を使い分けたようで、dim.はdecress.+rit.の意味を持っていることなどをお話しくださいました。また、<第3番>での「変ト長調」という調性が、現実から離れた世界や祈り、失った人を悼み、失った幸せへの憧れがあらわされており、ここでの「憧れ」は、ドイツ語で「die Sehnsucht(切望)」を意味しており、これは、シューベルトの音楽を理解する上で重要な要素となることや、<第4番>での、コーダの部分は死に向かって笑いながら疾走することが表され、これは、信仰深かったシューベルトにとって「死」とは苦しみからの解放であり、憧れであったことが反映されていることなどのご説明も大変興味深かったです。
後半は、シューベルトが22歳の時に作曲し、教師の仕事を辞め、晴々とした気持ちが反映されている≪ソナタ イ長調D.664≫です。今回は、時間の関係で第2楽章まででしたが、ここでも、前半同様に丁寧なレクチャーを行ってくださいました。<第1楽章>では、メロディをカンタービレで話しかけるように、また、その時の伴奏の8分音符は規則的に揺れないように弾くこと。半音階的な部分は、悲しく哀愁的に、メロディが分厚い和音になっているところは、絵画のグラデーションのように響きの比重を考えて弾くことなどをご説明くださり、<第2楽章>では、温かみのある音色で、和声のバランスを大切に弾くことや、伴奏がアルペジオで演奏される部分では、メロディはオーボエのソロのようにくっきりと弾くこと。また、調性の変化に「さまよい」を感じることや、アクセントなどの表現を確かにすることなど前半の≪即興曲≫の時と共通する点も感じられました。
最後に、シューベルトの作品には、「さすらい」、「孤独」「憧れ」、「失われた楽園へのノスタルジア」などといったものが重要なキーワードとなっていることや、外面的な効果を狙わず、自身の内なる声の言葉が表現されているとお話し下さいました。
非常にわかりやすく密度の濃い今峰先生の公開講座は、新たな発見が多く大変勉強になりました。その他多くの事柄についてのご説明もありましたが、紙面の都合上割愛させていただきましたことをお詫び申し上げます。
(K.S)
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