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ショパン・フェスティバル2010in表参道
歌曲の夕べ 〜歌曲でたどるショパンの生涯〜 開催レポート
2010年6月3日(木) 19:00開演(18:30開場))
主催:日本ショパン協会
共催:カワイ音楽振興会
「ピアノの詩人」として知られるショパンが歌曲も書いていたことは、まだあまり知られていないようです。ショパンは愛する祖国ポーランドの詩人の作品に、折に触れて音楽をつけ、歌曲を作曲してきました。その約20の作品は、ショパンがピアノ曲で発揮した天才的なメロディーセンスと通じるものがあるといえるでしょう。
今夜はレクチャーでショパンの生涯をたどりながら、その時々の歌曲の世界を楽しめるという、滅多にない魅力的なプログラムです。講師はショパン研究の第1人者で、「ショパン 知られざる歌曲」の著者でもある小坂裕子先生。演奏は松本和子さん(ソプラノ)、吉原教夫さん(テノール)、羽賀美歩さん(ピアノ)、全員東京藝大大学院出身の優秀な方々です。
レクチャーコンサートは、ショパンの人生を写真や絵と照らし合わせながらたどりつつ、その時代の歌曲を歌うという形で進められました。まずはワルシャワ時代の歌曲「願い」と「彼女が好きなこと」の2曲です。ショパンが愛してやまなかった素朴なマズルカのリズムが聞こえてくる、心地よい作品でした。
続いて、「消えろ!」「使者」「戦士」からは、ポーランド語と日本語を織り交ぜて歌われました。日本語訳詞は、松本さんと吉原さんが今夜のコンサートのためにつけられたそうです。いうまでもなく、それぞれの言語は固有の響きと美しさをもっており、歌曲は原語で味わうのが理想だと思います。しかし現実問題、ポーランド語を理解するということは多くの日本人にとってなかなか難しいことでもあります。その点、今回のように、1番をポーランド語、2番を日本語というように織り混ぜて演奏したことは、響きを味わいながら、同時に歌詞の世界を理解するという意味で、適切な方法だったように思います。実際、お二人がつけた歌詞は初めて聴く人にも分かりやすく、まるでミュージカルのように情景が浮かんでくるようでした。
この後も、レクチャーと演奏が交互に続きました。途中、「春の歌」と「ドゥムカ」のみ、羽賀さんのピアノソロでの演奏でしたが、こちらもシンプルな旋律を情感豊かに美しく演奏されていたのが印象的でした。
「彼女が好きなこと」「愛しい人」など愛らしく明るい詩や、「消えろ!」「戦士」などの少々挑戦的な詩、それに「孤独」や「メロディ」など後期の孤独な雰囲気の詩など、ショパンが選んだ詩の世界は実に多様なものですが、今回のレクチャーコンサートを聴いて、ショパン自身の人生経験(すなわちマリアとの出会いと別れ、ロシア革命、ジョルジュ・サンドとの出会いと別れなど)と詩・歌曲の世界が深く関係していることがわかり、大変興味深かったです。
最後、アンコールにはファニー・メンデルスゾーンの「ズライカとハーテム」を歌い、コンサートを締めくくりました。お二人の絶妙なハーモニーが朗々と響きわたる、とても素敵な演奏でした。
ピアノ曲とはまた一味違うショパンの魅力を堪能できた、楽しくて内容の濃いレクチャーコンサートでした。お客様もそれぞれにショパンの新たな魅力を発見されて、会場を後にしたことと思います。
(M.S.)
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