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 ホーム(ニュース) > ショパン・フェスティバル2010in表参道 レクチャー(講師:植田克己) ショパンとソナタ形式 開催レポート

ショパン・フェスティバル2010in表参道
レクチャー(講師:植田克己)ショパンとソナタ形式 開催レポート
2010年5月29日(土) 11:00開演(10:30開場)
主催:
日本ショパン協会
共催:カワイ音楽振興会

  

 「ショパン・フェスティバル2010 in 表参道」も半ばにさしかかりました。本日は11時から、東京藝術大学音楽学部長、日本ショパン協会理事の植田克己先生によるレクチャーが行われました。テーマは「ショパンとソナタ形式」。朝早い時間帯でしたが、非常に興味深いテーマということもあり、ピアノの先生や音大生など非常に多くの方々が会場に集まりました。

 クラシック音楽における「ソナタ」あるいは「ソナタ形式」の基礎は、主にハイドン、モーツァルトという2人の大作曲家によって完成されました。この原理を更に発展させ極めて密度の高い傑作を生み出したのがベートーヴェンです。後世の作曲家にとっては、このような古典派の偉大な巨匠達の「ソナタ」「ソナタ形式」の原理をどう吸収し、自分のスタイルを築きあげるかということが大きな課題となったわけです。ショパンもやはり、「ソナタ」「ソナタ形式」の原理を自身の作曲に取り入れた作曲家の1人といえます。3曲のピアノ・ソナタはもちろんのこと、バラードや幻想曲など、ショパンの比較的大規模な作品は、「ソナタ形式」の原理を取り入れることなくしては、生み出し得なかったのではないでしょうか。植田先生のレクチャーは、この問題に関して、独自の考察を交えながら、ショパンの傑作の1つ、《ピアノ・ソナタ》第2番作品35を分析していくというものでした。

 《ピアノ・ソナタ》第2番は、シューマンをして「ショパンは乱暴な4人の子供をソナタの名で無理やりくくりつけた」と言わしめた極めて斬新で独創的な作品です。第1楽章は、提示部、展開部、再現部、第1主題、第2主題と、それぞれはっきりと分析でき、その意味では古典的な「ソナタ形式」を踏襲しているといえるでしょう。植田先生の分析はそこからさらに踏み込んで、冒頭4小節の序奏と、5小節目から始まる第1主題の中に、楽曲全体を有機的に統一する重要な要素が見られるという内容でした(音楽の専門用語で「動機労作」と呼ぶものです)。たしかに、冒頭の減7度の音程と、第3-4小節目の下降音型、それに第1主題の反復音型は、その後楽章全体にわたって様々に形を変えて現れます。例えば提示部の終わりの部分の3連符の連続する箇所や、展開部の冒頭など、一見全く別の旋律のようですが、よく見ていくと序奏と第1主題を変形したものであることがわかります。つまり一見多様に見えるこの作品の旋律は、冒頭のいくつかのモチーフを元にしているのです。さらに植田先生は、第2-4楽章の主要主題についても、第1楽章冒頭のモチーフとの関連を指摘しながら、全楽章にわたって分析されていました。このように、ショパンは伝統的な「ソナタ形式」を手本としながら、ショパンならではの方法でモチーフを様々に発展させることによって、自由さを失うことなく、統一感のある大規模な作品を創り上げたのです。筆者としては、ユニゾンで疾走する第4楽章にまで第1楽章のモチーフが隠れていたという先生の指摘が驚きで、興味深いものでした。

 その後、先生は《幻想曲》作品49、それに4曲の《バラード》における「ソナタ形式」的な楽曲構造、それに「ソナタ形式」のショパンならではの応用法を簡潔に説明され、レクチャーを終了しました。

 本日のレクチャーは、ピアニストやピアノ学習者にとって、大変興味深いものだったと思います。ショパンの音楽は、あまりにも自然に、無限に旋律があふれ出るように感じられるので、分析的視点をおろそかにして演奏してしまいがちですが、植田先生が説明されたような「ソナタ形式」の原理をもとに楽曲を分析し、さらにショパンならではの「ソナタ形式」の応用法を自分なりに理解することで、演奏にもきっといい効果をもたらすことでしょう。受講者の方々もそれぞれに楽譜に書き込み、ショパンの作品への理解を深めておられたようでした。

 (M.S.)

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