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KSCO
柳澤光彦 ピアノリサイタル 開催レポート
東京音楽大学 表参道 サロンコンサート Vol.12
2010年12月22日(水) 19:00開演(18:30開場)
主催:カワイ音楽振興会
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
今年最後のカワイサロンコンサートは、期待の実力派ピアニスト、柳澤光彦さんのリサイタルです。現在東京音楽大学大学院に在籍し、国内の主要なコンクールで入賞なさっています。チケットは完売、開演前の客席は大変賑っていて、みなさんがいかに期待に胸を膨らませているかが伝わってきました。颯爽と舞台に登場した柳澤さん。最初の曲目は、現代音楽作曲家の権代敦彦の《ピアノのための無常の鐘》です。ピアノリサイタルの冒頭に現代作品を持ってくるのは珍しいこと。張り詰めた緊張感を伴うこの曲の演奏に、客席はたじろぐことなく、むしろ食い入るようにして聴き入っていました。この曲は日本の鐘の音にインスピレーションを得て作られています。その特徴である倍音が、様々な仕掛けによって聞こえてきて、幻想的とも言える世界を表現していました。
次はモーツァルトのピアノソナタ第3番 変ロ長調の演奏です。全3楽章からなるこの曲を、柳澤さんは折り目正しく演奏しました。第1楽章ではソステヌート・ペダルの意識的な使用や、強弱をはっきりと示すなど、この時代のピアノの語法を自らのものにしているところに好感を持ちました。第3楽章へと進むうちに、より立体的な音楽が見えてきて、全体が活発で動きのある演奏になって行きました。そうした全体の流れの作り方に、新鮮な感性が感じられました。
続いてリストの《巡礼の年 第2年 イタリア》より〈第7曲 ダンテを読んで〉の熱演です。モーツァルトで見せた軽快な遊び心あふれる表情とは全く違う、激しく荒れ狂ったかと思えば中間部では天の救いを求めるという日常離れした表情を畳み掛けるようにして見せてくれました。この、対比をできる限り大きく華やかに聴かせるあまりにリスト的な作品を演奏するには、想像以上のパワーを必要とするはずですが、柳澤さんは技術的にも精神的にも申し分ない仕上がりで聴き手を虜にしていました。
終わりはシューベルトの晩年の作品、ピアノソナタ第17番ニ長調です。力強い和音連打が印象的な第1楽章、壮大な世界観にしなやかで純粋なメロディが流れる美しい第2楽章、トリオによるいっそう軽やかな第3楽章。終盤は激しく盛り上がって終わる、という慣習とは異なり、むしろ優雅で心地よい気分で終わる曲で、客席一同、感じよく聴き入っていました。
盛大な拍手に応えて舞台に戻ってきた柳澤さんから、このリサイタルは出演が決まってからの準備期間が短かったとのお話がありましたが、それでも大盛況のすばらしいリサイタルでした。アンコールにスカルラッティのソナタを一曲(ロ短調)。最高の指さばきと熱のこもった演奏で終演となりました。今後の柳澤さんの活動が楽しみです。
(T.)
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