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KSCO
田中あかね ピアノリサイタル開催レポート
“ボンの町から 〜 Vol.2 ベートーヴェンとその先人達 〜”
2010年1月23日(土) 14:00開演( 13:30開場)
主催:カワイ音楽振興会
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
1月23日土曜日の午後、パウゼにたくさんのクラシック・ファンが集まりました。ベートーヴェンの故郷、ボンに約20年滞在していた田中あかねさんのピアノリサイタルです。今回は“ボンの街から”というシリーズの第2回で、ベートーヴェンとその先人達にスポットを当てる内容でした。前半では、ベートーヴェンが若い頃に影響を受けた作曲家として、クレメンティとモーツァルトが取り上げられました。二人は当時有名なピアニストで、いいライバル関係にあったようです。クレメンティは、現在では指の技術向上のための易しい作品で知られていますが、技巧ばかりではなく、表現性の求められる作品も多く書きました。プログラム2曲目のクラヴィーア・ソナタ ト短調(作品7-3)は、右手と左手がかなり離れる広い音域を使って、演奏の表現をとりわけ誇示しているようにも感じられる曲です。田中さんの演奏では、オクターヴ音程で動くところで圧倒的な力強さを、また細かい音型によるパッセージで軽やかに美しく厳かな表現を聴くことができました。
クレメンティが競い合った相手モーツァルトのピアノ演奏は、とりわけ即興性において際立っていたと伝えられていますが、それがもっとも反映されているのは変奏曲のジャンルでしょう。プログラム3曲目、グルックのオペラ・アリアの主題にもとづく10の変奏曲(K. 455)は当時実際に即興で披露されたもので、各所に即興の妙技が現れます。長く拡張されるカデンツァ風の箇所も、田中さんの演奏ではモーツァルト的な即興精神に基づいて自由に表現されていました。
後半はベートーヴェンが実際に師事したハイドンのクラヴィーア・ソナタの演奏で始まりました。クラヴィーア・ソナタ ホ短調(Hob. XVI-34)には拍節構造がややずれるところがあります。しかし田中さんの演奏では、そういった箇所にこそ、規則的な拍節では捉えきれない自由なファンタジーが宿っていました。プログラムの最後は、ベートーヴェンの《熱情》ソナタでした。この曲ではクレメンティ的な技巧と表現の両立、モーツァルトの即興性が反映され、また、ハイドン的なファンタジーが表れています。こうしてベートーヴェンの先人達を経てから《熱情》を聴くと、彼が同時代の様々な音楽に接しつつ、自らの表現力を培っていった様子が非常によく分かりました。
今回のプログラムは、音楽作品を聴くことができるだけでなく、音楽家が生きた社会についても思いを馳せることのできる、素晴らしい企画だったと思います。(T.)
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