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KSCO
ピアノ生誕記念レクチャーコンサート 開催レポート
演奏とお話:小倉貴久子
2009年10月31日(土) 16:00開演( 15:45開場)
主催:カワイ音楽振興会
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
10月31日、パウゼにて「ピアノ生誕記念レクチャーコンサート」が行われました。フォルテピアノを中心に、鍵盤楽器の演奏で幅広く活躍されている小倉貴久子さんが、5台の楽器でお話を交えながら、ピアノの歴史をたどるという非常におもしろい企画でした。
会場に足を踏み入れ、まず目に飛び込んできたのは、所狭しと並べられた5台の楽器です。普段とは雰囲気の違うパウゼに、期待も高まります。
最初に演奏されたのは、バロック時代に栄光を極めたチェンバロ。華麗な装飾音が優美なクープラン≪恋するうぐいす≫、4フィートという弦の仕組みを使って、華やかなタンバリン風の音色が魅力的なラモー≪タンブーラン≫を演奏されました。またJ. S. バッハの≪イタリア協奏曲 ヘ長調≫では、バッハが指定した「2段鍵盤」の、フォルテとピアノの音量の対比も効果的で、とても生き生きとした印象を受けました。
続いて、クラヴィコードによるJ. S. バッハ≪平均律第1巻第1番≫のプレリュード。お馴染みの作品ですが、印象がまったく異なり驚いた方も多かったことでしょう。というのも、これは非常に音の小さな楽器なのです。会場全体が息をひそめて、聴き入っていました。もう1曲は、クラヴィコードを高く評価し、とても愛好していた作曲家、C. P. E. バッハの作品でした。ここでは、お話にもあった「ベーブング」と呼ばれる、ヴィブラートのようなクラヴィコード独特の奏法を聴くことができました。
前半最後は、クリストーフォリの楽器、最初のピアノとして知られるものが聴かれました。この楽器を復元された、久保田彰さんの製作や調整にまつわるお話も、とてもおもしろかったです。演奏は、このピアノのために書かれた最初に作品、ジュスティーニのソナタ。あたたかく素朴な響きで、300年前のピアノが発明された頃の音楽に思いを馳せました。
休憩後は、古典派の作曲家に愛されたヴァルターの楽器で2曲演奏されました。モーツァルト≪ロンドニ長調≫では、まさに「真珠」のような音色で、モーツァルトの求めた音楽が響いていたように思われました。ベートーヴェン≪ピアノ・ソナタ「悲愴」≫では、最初の和音を一般的な演奏よりも長く弾かれていたのが特徴的でしょう。これは、ベートーヴェンが、音が消えるまで伸ばしていた、と言われているからです。現代のピアノでは、音がなかなか減衰しないため難しいのですが、ヴァルターでは比較的減衰が早いため、とても効果的なのです。
最後は、現代のピアノです。このような流れで聴くと、耳馴染んだピアノが、いかに豊かな音量で、連打のような高度なパッセージが可能な楽器になったのかを実感しました。リスト≪ラ・カンパネラ≫とドビュッシー≪喜びの島≫は、圧倒的なテクニックと表現力で、華やかな締めくくりとなりました。
そしてもう1曲、アンコールにベートーヴェン≪ピアノ・ソナタ「月光」≫の第1楽章をヴァルターで聴かせてくださいました。ペダルを楽章間踏み続けることで、ヴァルターならではの、非常に美しい幻想的な雰囲気を堪能しました。
ピアノの歴史を、その楽器の特質を活かした作品によって、しかも実際の音でたどることのできる、とても貴重な機会だったのではないでしょうか。(M. K.)
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