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KSCO
喜多宏丞ピアノリサイタル
《2008年 日本音楽コンクール入賞者シリーズ Vol.2 》
2009年9月17日(木) 19:00開演(18:30開場)
主催:カワイ音楽振興会
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
すっかり秋らしくなり涼やかな季節に、喜多宏丞さんのピアノリサイタルが開かれました。喜多さんは昨年の日本音楽コンクールで第1位を獲得なさった若手ピアニストです。表参道「パウゼ」では、サロン空間ならではの親近感ある演奏を聴くことができました。プログラムは「受け継がれゆくもの」というテーマのもと、作曲家間のつながりを時代を追いながら聴くことができるようになっています。前半は、ショパン、ショパンのピアノ語法を受け継いだスクリャービン、スクリャービンに大いに感化された山田耕筰という流れを描き出しました。
ショパンの《4つのマズルカ》(作品17)は、サロン風の雰囲気がおしゃれな曲です。右手と左手の絶妙な響きに喜多さんらしいセンスが光りました。次のスクリャービン《左手のためのプレリュードとノクターン》(作品9)を弾く前には身体のポジションを入念に準備し、演奏スタート。片手の五本の指だけでここまで壮大な、密度の濃いテクスチュアが表現されるなんて、本当に素晴らしかったです。《黒ミサ》(ソナタ第9番、作品68)は、魔法がかった神秘の世界に誘われるような演奏でした。山田耕作の《スクリャービンに捧ぐる曲》を演奏する前に、喜多さんは、山田の言葉を朗読しました。言葉の余韻を感じながら演奏を聴いていると、山田がいかにスクリャービンの音楽に影響を受けたか、ひしひしと感じられるものがありました。
後半は19世紀の大作曲家ヴァーグナーと、ヴァーグナーの大ファンであったフランクの作品です。ヴァーグナーのピアノ曲《M. W. 夫人のアルバムのためのソナタ》は単一楽章ですが、全体に大きな起伏があり、幸福感の漂う感性豊かな演奏でした。フランク《オルガニスト》からの第1番、第3番、第5番は、どれも瞑想的な世界を見せてくれました。有名な《プレリュード、コラールとフーガ》の特にフーガでは、力強い主題が幾度となく現れるたびに、聴衆の心を突き刺すような強烈なインパクトがありました。
どの作品においても、不動の信念と確かな音楽性にうらづけられた喜多さんの演奏に誰もが感動していました。今後の演奏活動が楽しみです。(T.)
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