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松井ひかるピアノリサイタル開催レポート
2009年5月23日(土) 19:00開演(18:30開場)
主催:カワイ音楽振興会
会場:
カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」

 初夏の陽気が感じられる5月23日、松井ひかるさんのリサイタルが「パウゼ」にて開催されました。松井さんは、武蔵野音楽大学・大学院を修了し、国立ハンブルク音楽大学大学院に留学して研鑽を積まれたピアニストです。この日のプログラムは、オール・リスト。リストといえば、超絶技巧といったイメージですが、そのような作品ばかりではありません。このコンサートでは、リストの様々な顔をうかがい知ることのできる曲で構成されていました。

 前半は、シューマン=リスト《献呈》で、幕を開けました。これは、シューマンの歌曲をリストがピアノ用に編曲したもの。あまり知られていないかもしれませんが、リストは他の作曲家の作品の編曲も多く手がけていたのです。シューマンがクララとの結婚前夜に捧げたという愛に満ち溢れた旋律が、リストのほどこした華麗な装飾の中からきれいに浮かび上がり、非常に美しかったです。続く《愛の夢 第3番》も、もともとはリストが歌曲として作曲したものでした。透き通った音色で、まさに歌のように、旋律が響き渡っていました。《エステ荘の噴水》では、高音でのきらびやかなパッセージで、噴水の湧き上がる様子が目に浮かぶようでした。ここまでとは少し異なるリストの一面が現れたのは、《詩的で宗教的な調べ》より〈孤独の中の神の祝福〉でした。内面的な表現で、敬虔なカトリック教徒、聖職者としてのリストを感じさせるものでした。そして、前半最後は再び華やかなリストに戻って《ヴェネツィアとナポリ》より「タランテラ」が演奏されました。急速な連打で鍵盤を駆け巡るテクニック、そして対照的な中間部での柔らかなフレージングで、流れのある演奏でした。

 後半の1曲目は、ヴァーグナー=リスト《イゾルデの愛と死》、ヴァーグナーの有名な楽劇《トリスタンとイゾルデ》からの音楽です。ピアノ1台からオーケストラのような響きを醸し出せるのは、ピアノを知り尽くしていたリストならではの手腕だと思いますが、その壮大さがうまく伝わってくる演奏でした。そして最後は、大曲《ピアノソナタ ロ短調》でした。難曲中の難曲ですが、とりわけオクターヴのパッセージの圧倒的な響きなど、パッションあふれる魅力的な演奏でした。最後の浄化されるような和音はとても美しく、気持ちの良い余韻を残して閉じられました。

 そして、アンコールとしてもう1曲、やはりリストの《リゴレット・パラフレーズ》を聴かせてくださいました。ヴェルディのオペラの旋律を、リストがピアノ曲として仕立て直したこの作品で、コンサートは非常にきらびやかに締めくくられました。

(M.)

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