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KSCO
ティグラン・アリハノフ ピアノリサイタル開催レポート
〜チャイコフスキー記念モスクワ音楽院学長による珠玉の名演!〜
2009年1月28日(水) 19:00開演(18:30開場)
主催:カワイ音楽振興会
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
今日のコンサートは、現在モスクワのチャイコフスキー記念モスクワ音楽院で教鞭をとる、ティグラン・A・アリハノフさんのピアノリサイタルです。ベートーヴェン、シューマン、ムソルグスキーといった巨匠たちの作品を、アリハノフさんはどのようにして私たちに魅せてくれるのでしょうか。ステージに颯爽と登場したアリハノフさんが最初に演奏するのは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ《ワルトシュタイン》です。この曲はハ長調の和音の連打で始まります。ただ弾いているだけでは単調になりがちな音型ですが、アリハノフさんの演奏では、とても大きなフレーズを感じさせるものでした。自然体から生まれる音楽とはこのことだと思いました。アリハノフさんの自然な動きによって、全ての音が生き生きとしてくるのです。活発な第一楽章に対して、落ち着いた曲調の第二楽章を、アリハノフさんは幻想感たっぷりに演奏しました。なるべく多くの音が鳴っているようにペダルをうまく使っていたのです。特に低音から生まれる倍音は、最大限に増幅されていました。間をあけずに第三楽章が続きます。ここでテーマになる音型は幾度となく変形し、発展をとげていくのですが、このテーマが主調で再び表れたとき、世に待たれた英雄が登場するかのように、それは堂々としたものでした。こぼれるようなトリルはとても愛らしいものでしたし、音の厚みと深みは、アリハノフさんの円熟した音楽性から出てくるとしか言いようがありません。
シューマンの《謝肉祭》Op. 9は、ヨーロッパのカーニヴァルの様子を思い描くことのできる作品で、小さな曲20曲からなっています。ここで登場するたくさんの個性豊かな人物像(<ピエロ>、<ショパン>など)、それ以外の情景描写(<返事>、<告白>、<ワルツ>など)、を、アリハノフさんは愛情たっぷりに、時にはコミカルに、時には憂鬱に浸って、演奏しました。次から次へと変化する万華鏡のような演奏でした。
休憩後は、ムソルグスキーの組曲《展覧会の絵》です。ムソルグスキーはロシアの作曲家ということで、アリハノフさんはムソルグスキーに対して特別の思いを持っているのでしょうか。とても説得力のある演奏でした。この作品は、<プロムナード>をつなぎとして9曲の「絵」(それぞれに<古城>、<ひなどりの踊り>というようにタイトルがつけられています)が演奏されます。1曲か2曲おきに、<プロムナード>を通って、次の絵の前に着くというわけです。どの「絵」も、実に描写的で、ストーリーが目の前で展開されているかのようでした。たとえば<古城>では、湖に面したところに、濃い霧がかかっていて、それが一瞬晴れると、古く厳かなお城が姿を現し、時折風が吹き、草木がさやさやとゆれ、人気もないのに、ドアが開いた・・・というような描写が私の目の前に浮かびました。具象物の描写だけではありません。最後の<キエフの大門>では、迫りくる重圧感、輝かしい栄光といった抽象概念をも表現していたように思います。
アンコールは、ショパンのワルツ イ短調 作品34-2でした。なんと旋律の美しいことでしょうか。体全体から滲み出る旋律を聴いて、雪のふる、厳冬の地を思い浮かべずにいられませんでした。
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