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倉澤杏菜 ピアノリサイタル開催レポート
2008年9月8日(月) 19:00開演(18:30開場)
会場:
カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」

 倉澤杏菜さんは、桐朋音楽大学を卒業され、現在国立ベルリン芸術大学で学ばれています。数々のコンクール受賞歴、そして演奏歴を持つ、期待の若手ピアニストです。

 前半は、ドイツもの。まずはブラームスの《6つの小品》Op. 118です。非常に重厚で深みのある音で、落ち着いた雰囲気を伝えていました。ブラームスの晩年の作品は、とても内面的で独特な世界観を持っていると思いますが、この若さでここまで表現できるのは並大抵のことではありません。終曲での、暗い中に秘められた美しさと中間部でのパッションのほとばしりは、とりわけ印象的でした。続いてバッハ=ブゾーニの《シャコンヌ》。バッハが無伴奏ヴァイオリンのために書いた作品を、ブゾーニがピアノ用に編曲した作品です。バッハの原曲からあるバロック的な要素と共に、ブゾーニによって加えられたロマン的な要素、そしてヴィルトゥオーソ的要素が絶妙なバランスで表現されていました。とても10本の指で弾いていると思えないほどのテクスチュアの厚みを、ダイナミックかつ立体的に仕上げていました。

 休憩をはさんで、ラヴェルの《鏡》より2曲。『海原の小舟』は、アルペジオから生み出される心地良い「波」が、きらびやかで情景が思い浮かぶような演奏でした。『道化師の朝の歌』では、彼女の超絶技巧が見事に発揮されていたと言えるでしょう。リズムの切れ味も抜群で、この曲の持つ楽しさがよく表れていました。そして最後は、ラフマニノフ《ピアノ・ソナタ第2番》(改訂版)です。冒頭の下行音型から、力強いパワフルな音が会場を満たしました。ロシア的な壮大さ、そしてやや陰りを伴った美しさと、ラフマニノフの音楽の魅力が十分に楽しめました。

 満員の聴衆の盛大な拍手に応え、アンコールは2曲、アルベニス《スペイン組曲》『タンゴ』とモーツァルト《トルコ行進曲》(ヴォロドス編)が演奏されました。私は《トルコ行進曲》のこのヴァージョンを初めて聴いたのですが、モーツァルトの音楽の上下を彩る多彩な装飾に、圧倒されてしまいました。あらゆるテクニックが詰め込まれた、このヴィルトゥオーソ的作品を軽々と弾きこなし、コンサートを華やかに締めくくりました。

 ドイツ、フランス、ロシアと幅広いレパートリー、そして確かなテクニックとあふれんばかりのパワーを持つ倉澤さん。今後、ますますご活躍されていくことでしょう!

 

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