伊藤めぐみのショパン・アルバムの第2集。際立って個性的な解釈というわけではないものの、ポーランドのショパンを心身ともに理解した者のみが可能な、作品への純度の高い共感と説得力がある点で評価される。<スケルツォ>第1番の冒頭の和音が楔を打ち込むように弾かれ、中間部のポーランドのクリスマス・キャロルもしみじみとして味わい深い。それにしてもよく弾ける方だ。ワルシャワで学び、パデレフスキ国際やゲッティンゲン・ショパン国際、フンメル国際コンクールなどのコンクールの入賞歴を持つことも頷けよう。弾力性に富んだしっかりとしたタッチと重厚な和音や明快で濁りのないテクスチュア、鮮やかなパッセージもさることながら、主張が明快でストレートな感情表現がなんとも痛快。ぴんと張り詰めた緊張感のなかで、作品の情感を自らの心に重ね合せてダイナミックに豪快に音楽をドライヴしていく。第3番の序奏、前奏曲風の出だしの不安感とダイナミズムの入り交ざった感情が興味深く、オクターヴの主題やメノ・モッソのコラール風の第2主題は力強く、4小節ごとに登場する、ブロークン・アルペッジョとの対比も見事だ。いたずらにテンポを揺らさないことで不動の安定感が得られ、同時に和音の色合いの変化が自然な陰影を与えている。コーダへの盛り上がりに見せる精神の高揚感も好ましい。第4番は中間部がいい。遥かな地平までひろがる、くっきりとした輪郭のフレージングの線に滲ませた人間的な苦悩の表情・・・・。そこから主部への復帰のテンポと気分の切り替えも鮮やかだ。<タランテラ>の弾力性のあるリズムのノリ、<別れの曲>も<スケルツォ>第4番の中間部の旋律同様、滋味に富む。
(那須田務)
[録音評] けっこうたっぷりとした残響感だが、ひとつひとつの音が実に明瞭で音楽の起伏感もよく伝えている。音響的なエネルギーは中域の密度を高めたしっかりとしたものだが、低域に対してのレンジ感はやや小さめ。演奏者までの距離感は遠いというほどではないものの、若干あるようだ。響きも広がりも自然である。
(石田善之)